知り合うことのむずかしさ
選んだのは週刊新聞の「ヴィレッジ・ヴォイス」である。当時は有料だったが今はフリーペーパーになっている。
パーソナル欄に載っているアメリカ人の広告はたとえば、「当方魅力的な30代白人男性、投資銀行家として経済的に快適な生活を謳歌中。ボラボラ島帰りのゴージャスな日焼け、ルックスは人並み以上。
6フィート、160ポンド。ウェイトリフティングで鍛えた大胸筋が自慢。芸術を愛し、ニューヨーク・ニックスを愛する社交的タイプ。束縛なしの楽しい交際を求む」などと、謙譲の美徳などあらばこそ、その自画自賛ぶりは辟易を通り越して笑いを誘う。
控え目な男性を選んで電話をしたら、「独身」とあるのに、赤ん坊の泣き声が聞こえてきたり、やさしく、思いやりがある、という宣伝の割りには喋り方がトゲトゲしかったので会う約束はしなかった。
数人に電話してみて、結局は誰とも会わず、やはりパーソナル欄を利用して人と出会うのはいいアイデアではない、桐島さんはたまたま運が良かっただけなのだろうと結論を出し、それきりパーソナル欄の事は忘れてしまった。
その後、毎週「ヴィレッジ・ヴォイス」のパーソナル欄に広告を出しに来る肥満体の男性の話を読んだ。彼の広告文には「フィットした(引き締まった)体つき」とあり、受付の男性から怪しまれると「あ、いや、僕の友人の広告なんだ」と言い訳したという。やはりいい加減な内容が多いのだろう。
日本の出会い系サイトの自己紹介にも同じような事があるようだ。私の知人から聞いた話だが、その知人の甥はしばらくの間、携帯電話の出会い系にハマッていて、女性とちょくちょく会っていたという。ところが、ある日浮かない顔をしていたので、「どうしたの?」と聞くと、「出会い系の女性なんて嘘ばっかり。ぽっちゃりと言ったらそれは太ってる、って事ですよ!」と教えてくれたという。
「水増し」の誘い文句を使って出会ってもうまく行くはずはないと思うのだが、「会いさえすれば何とかなる」「何でもいいから会いたい」と利用者は思っているのだろうか。テレクラを利用したことのある女性に話を聞くと、「社交ダンスが趣味というから趣味のいい男性かと思ったらホームレスのような身なりの人だった」など、会ってびっくりという事は多いらしい。
ちなみに、この知人の甥は、出会い系は卒業して実社会で出会った女性と結婚し、今は一児のパパで幸せに暮らしている。
ところで数年前、私は再び、出会い系の利用を思い立った。なぜかと言うと、ニューヨークにいる「アジ専」「ジャパ専」 という、東洋系の女性にしか興味のないアメリカ人について調べようと思い立ったからである。
『飛ぶのが怖い』(エリカ・ジョング著、原書1973年、邦訳1976年)というベストセラー小説には、中国人にしか惹かれないユダヤ人女性が主人公である。特定の人種が好きな事に何の不思議もないのだが、アメリカ人の男性が東洋系の女性に惹かれる場合はちょっと違うのではないか、と思った経緯があったのだ。
それは、アメリカの退役軍人が集うVFWという東京・福生市のクラブで聞いた退役軍人の一言だった。
「日本人女性と付き合ったり結婚しているアメリカ人男性には問題がある」「アメリカ人の女性は強すぎて付き合えないから日本人を選ぶのだ。日本人は何でも言う事を聞く。大人しくて楽でいい」「日本人女性と付き合ったらもうアメリカ人女性には戻れない」60代の元軍人の彼はそう言ったのだ。
日本女性が「何でも言う事を聞く」というのは現在では必ずしも当ってはいないかもしれないが、それでも自己主張の強い、男性にも堂々と要求を突きつけるアメリカ女性に比べればかなり大人しいというのは当っていると思う。
好かれるのはいいが、このような理由から好き、というのではあまり喜べない。それに、「ジャパ専」のアメリカ人は、ニューヨークに住んでいる日本女性にはあまり受けが良くないのだ。
それは、「ジャパ専」の男性はアメリカ人女性にモテないので日本女性を狙うからだと聞いた。アメリカ人女性にモテないタイプではアメリカが好きで住んでいる日本女性にもあまりモテるとは思われない。
「ジャパ専」のアメリカ人男性を探して話してみようと思っていたとき、ニューヨークの日本人経営の貸しビデオ屋のなかで、「アメリカじんのともだち アルトン」という個人広告を見つけ、さっそく電話をしてみた。
電話では、おっとりとした印象の黒人で、もしかしたらゲイかもしれないと思った。数日後ダウンタウンのアストリア駅近くのスターバックスで待ち合わせた。
約束の時間を20分過ぎてもそれらしい人物は来ない。出会い系では、待ち合わせ場所にやって来る事はやってきても、相手を見て気に入らなければ何も言わずに立ち去ってしまう場合がある。(やられたかな)と思い、コーヒーとサンドイッチを頼んで遅いランチを摂っていたところ、彼が姿を現した。遅れた言い訳もしない。何も注文をしない。
彼の非常にゆっくりした話し方は、彼のスタイルというより、知的障害のせいではないかと思われた。話す内容からもそれが窺われた。
彼は大人しく小柄でキュートな日本人女性の恋人を探す為に広告を出しているらしかった。私がそれに当てはまらないせいか、彼は延々と、今まで出会った日本人女性のグチを語り続けた。
自分のアパートを無料の宿代わりにされた、良くしてあげたのに恋人になってくれなかった、などなど……。彼自身が「look for abuse」(=利用されるような事態を自ら求めている)しているように思えてならなかった。
最近の出会い系は有料が主流のようだ。Yahoo!アメリカにも出会い系サービスがある。Yahoo! Personalsがそれで、料金は1カ月24ドル95セント、3カ月なら月16ドル65セント、6カ月なら月12ドル49セント。
1カ月ほど前、英会話学校の取材の際に間違って登録してしまった日本のある出会い系サービスも、うまく出来ている。メンバーの紹介は無料。ただし、メールを出そうとすると有料メンバーにならなければいけない。写真もなく、ほとんど何も記入していないこちらのプロフィールを見て、あるアメリカ人男性メンバーからメールが届いた。
モデルと英会話講師をしている男性である。よほどルックスに自信があると見え、写真を何枚もアップしている。長身で青い目。実生活でもモテるに違いないのに、わざわざ写真も載せていない私にコンタクトしてくるとは物好きだが、やがてその理由がわかった。
「あなたと是非お話したいが、ボクは経済的に苦しく、あなたにコーヒー1杯ご馳走する事もできません」お金目当てなのである。
出会い系に、「Gold mine」(=金鉱、宝の山)はない。「Gold digger」(=金鉱堀り、転じて、金目当てに異性と交際する人)はいるが。
