ITは、いま…ふたり論

東京の雑誌社で働くOLで、舞踏家でもあるユリヤさんと、軽井沢の老人介護士で、ジャズが好きなMottyさん。仕事も趣味も住んでいる場所も、まるで違う2人。mixiじゃなければきっと、出会わなかった2人だ。

ユリヤさんがmixiを始めたのは昨年3月4日、mixi正式オープンの翌日。職場の男性から、招待メールが届いた。URLをクリックすると、彼のmixi日記の一部が見えた。「もっと読んでみたいというスケベ根性で」登録したという。

職場では見えない彼の意外な一面が見えた。参加していた他の同僚とも、日記やコメントを通じて親しくなれた。日記で本音を吐き出すのも、気持ちよかった。職場でも家でも1日中mixi――そんな日が続いた。

Mottyさんがmixiに入ったのは、ユリヤさんの1カ月後、4月5日。親友に「招待状送るから」と電話で誘われた。とりあえず入会し、日記を書き、コミュニティーを作ってみた。翌日には、見知らぬ人からコメントやメールが届き、コミュニティーにもメンバーが入っていた。うれしかった。仕事も忙しかった当時、睡眠時間を削って、mixiにのめりこんだ。

当時のmixiユーザーは、まだ数千人。「みんなが顔見知りだった」と、ユリヤさんは振り返る。外界から守られた、こぢんまりした温かい空間。知らない人のページにも気軽に訪問できたし、赤の他人の日記にコメントを付けるのも、普通だった。リンクしている友人――「マイミクシィ」(マイミク)――をたどるだけで、誰とでも自然に出会えた。

突然届いた、舞踏家からのメール

「気になる人がいる」――ある日ユリヤさんは、マイミクの友人に打ち明けた。といっても軽い調子で。友人と2人で、mixiの“いい男”を探す遊びの一環。素敵な人を見つけては、友人と「かっこいいね」と言い合っていた。

そんないい男の1人がMottyさんだった。軽井沢からネットで情報発信する彼が、素敵に見えた。

2人がmixiで知り合ったのは4月20日。Mottyさんが部屋の写真を公開した日記に、ユリヤさんが初めてコメントを付けた。Mottyさんが返事すると、ユリヤさんからマイミク登録依頼が来た。「ある日突然、見知らぬ舞踏家さんから、メールが届いた。そんな感覚でした」――Mottyさんは振り返る。

Mottyさんの返信には、彼の個人サイトのURLが書かれていた。ユリヤさんはそのサイトで、2人の不思議な共通点を見い出す。ユリヤさんが子どものころ持っていた珍しいお守りを、彼も持っていたのだ。

青銅製の小さな神様と、象牙の動物が入った、赤い木の実。「こんなレアなものを持っている人が他にいるなんて」――運命みたいなものを感じた。そんな気持ちをメールに込めて、Mottyさんに送った。

こうして2人は2~3日に1度、メールを送りあうようになる。ユリヤさんもMottyさんの博学と面白さにますます惹かれていく。Mottyさんは、気さくな姉御と美しい舞踏家という2面性が同居するユリヤさんに、ひどく惹きつけられていく。

2人で会うことになるまで、時間はかからなかった。初デートは5月23日。埼玉県の秩父鉱山だった。

廃墟デート

廃墟が好きなユリヤさんと、鉱物が好きなMottyさん。廃墟と鉱物とが同居する秩父鉱山は、2人にとっては格好のデートスポットだった。メールで連絡を取り合い、秩父の駅で待ち合わせる。オフ会に慣れていた2人は、そんなデートも自然にできた。

Mottyさんは、自身のサイトに集まる仲間と、オフで何度も会っていた。ユリヤさんは、パソコン通信の時代から、オフ会に参加していた。ネットで出会った人とオフで会うのは、特別なことじゃなかった。

5月22日の朝。秩父の駅に現れたユリヤさんは、予想以上に美しく、明るい女性だった。Mottyさんは、博識でおしゃれで、mixiで見るよりも、ちょっぴり無口だった。

2人は秩父の廃墟を訪ね、何枚も写真を撮った。廃墟の外観や内装、廃墟にたたずむお互いの姿……。「その日に限って、なにもかもがうつくしかった」――Mottyさんはmixiの日記に、こう書いている。

鉱山を出て、埼玉にあるユリヤさんの実家の近くに行った。米軍基地跡地の森を歩き、ユリヤさんお気に入りのバーで夜を過ごし、ホテルで朝を迎えた。翌日は群馬県に足を伸ばし、碓氷峠の廃線を訪ね、軽井沢に向かった。

mixiから2人同時にいなくなった――2人のマイミクたちは、デートにうすうす気付いていた。毎日ログインするのが当たり前だった2人。突然同時に消えたのは、明らかに怪しかった。

もともと隠すつもりもなかった。旅から戻った翌日、Mottyさんは旅の写真を何枚も、mixiにアップした。最後に、ユリヤさんの写真を3枚載せた。マイミクたちは、2人の交際を確信した。

近づく結婚、遠ざかるmixi

そのころから、Mottyさんの日記には甘いノロケがつづられる。マイミクたちはそんな彼を温かく見守り、たまに茶々を入れる。こんな状態が、2カ月あまり続いた。

2人の間には、mixiという媒介が徐々に、不可欠ではなくなってきた。「きっかけはmixiだったけど、その後は普通の付き合いだった」と、Mottyさんは語る。2~3週間に1回は会っていたし、携帯で連絡をとることが、mixiメールよりもずっと多くなっていた。7月ごろには、mixiにログインすることも減っていた。

そのころ2人はすでに、結婚を考え始めていた。「結婚してくれないかって、夏に言われたよ」と話すユリヤさんに「覚えてないなぁ」とMottyさんはちょっと驚く。

Mottyさんの記憶によると、正式なプロポーズは翌年、今年3月になってからだ。mixiコミュニティーで開いたジャズイベントの打ち上げの席。2人共通のマイミクに「今言いなさい」と迫られ、思い切ってプロポーズしたという。「ベロンベロンだったから、何言われたか覚えてないけど」と、ユリヤさんは笑う。

mixiで婚約発表したのは今年3月13日。Mottyさんは「新居が決まりました」という日記で、ひっそりと婚約を打ち明けた。ユリヤさんは3月22日の日記で「マイミクのMottyと結婚します!」と宣言した。40以上の祝福コメントが付いた。

結婚式はジューンブライド。6月11日だった。披露宴の司会は、Mottyさんをmixiに招待してくれた彼。2人共通のマイミクも3人呼び、北軽井沢の小さな教会で、幸せな結婚式を挙げた。

2人が知り合った当時、人口数千人だったmixiは、1年ちょっとで100万都市に成長した。気づいたら、隣は知らない人ばかり。mixiで出会いを求める男女につけ込む、犯罪まがいの話もちらほら聞くようになった。

彼らがあのとき、普通に出会い、普通の恋ができたのは、奇跡に近いできごとだった。「今のmixiだったら、きっと出会えないと思う」――2人はそう言って、うなずきあった。